犯罪被害者家族の会”Poena(ポエナ)” JR池袋駅立教大学生殺人事件の遺族が捜査打ち切りを要望されていることについて思うこと。
犯罪被害者家族の会 Poena(ポエナ)は、池袋駅構内立教大生殺害事件の被害者、小林悟さん(享年21歳)の父親である小林邦三郎さんの呼びかけで、2006年に犯罪被害者の遺族・家族たちが集まって設立された組織です。
⚫主な活動内容
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・犯罪防止活動と被害者・家族間での互助活動
・現行法上、境界領域にある事件(少年や触法精神障害者による犯行など)の事件の被害者・家族への支援・互助
・犯罪や事故事件の防止・抑止の活動を行う他団体との交流、及び支援活動
・問題提起・提言活動
・未解決事件の調査、捜査支援、情報提供キャンペーンの実施
啓発活動(少年院での講演を含む)
ホームページより引用
http://www.ll.em-net.ne.jp/~deguchi/about_us/about.htm
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今回取り上げたこの記事内容は、実は2012年4月にすでに警察庁に要望書として提出されていたものなのですが、つい先日ツイッターで内容を知り、非常に興味深かったのでエントリーとすることにしました。
まずはこの要望書とニュース記事をご覧になってみてください。
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【JR池袋駅立教大生殺人事件】遺族が捜査打ち切りを要望
http://www.ll.em-net.ne.jp/~deguchi/news/2012/0422.html
要望書(※pdf形式)
http://www.ll.em-net.ne.jp/~deguchi/action/doc/2012_04_16.pdf
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詳しい事件内容は先述に任せますが、この事件が起きたのは1996年4月。今年で悟さんの18回目の命日を迎えました。2010年に改正された「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(平成22年法律第26号)により、殺人などの凶悪事件の公訴時効はそれまでの「25年間」が撤廃され、無期限となりました。
一定期間逃げ切れば時効によって無罪放免になるというのは、被害者感情からいって到底許せるものではないでしょうし、撤廃されたのは望ましいことだったと私は思います。今回取り上げたポエナの会の代表・小林邦三郎さんも時効撤廃を求める活動を続けていらっしゃいます。
しかし、小林さんはそれとともに、「法の下での命の平等を訴えており、遡及の問題から法改正前の事件の時効が撤廃されることに当初から反対」という立場を取られております。小林悟さんの事件は法改正の前に起きました。ですが、悟さんの事件は改正後の法の対象とされました。これについては一概に良し悪しは言えません。
”改正前に凶悪殺人事件を犯した者は25年逃げ切れば無罪放免になり、法改正後に凶悪殺人事件を犯した者は死ぬまで逃げ切らないとならない。”
被害者の気持ちを僭越ながら察するとすれば、「犯人は未来永劫許せないし時効があるなんておかしい!」と思うのではないでしょうか。私はそこに疑問はありません。
小林邦三郎さんは、記者会見でこう仰っています。
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「後から法律を作って何でもできることになれば、法を守ろうとする意識が失われてしまう。親としては犯人を捕まえてほしいが、日本という国家のため、よりよい日本社会をつくるため苦渋の決断をした。」
http://www.ll.em-net.ne.jp/~deguchi/news/2012/0422.html
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日本は法治国家ですから、法律に基づいて生きていかねばなりません。法に従っていたが、改正された新しい法律によって今まで行なっていたことが”罰せられること”に変わってしまうことがある。そんなとき、改正前に行なっていたことで捕まってしまうかもしれない。そうなると、”法律は守るべきもの”ではなくなっていくかもしれない。守っていたところで、”後出しジャンケン”でやられてしまうのだから。
すべてがすべて、当てはまることではないのかもしれませんが、この決断を下した小林さんがどれだけ悩んだ末だったのか、私たちはよく考えないといけないと思います。
今の世の中、「被害者感情ないしは消費者感情だけで物事が動いてしまっている」ことが増えてきているのではないでしょうか。しかも、こうした被害者感情を持ち出して暴れまわるのは、えてして部外者だったりするわけです。ヤジを飛ばすのは簡単ですからね。
要望書にはこう書いてあります。
「(前略)犯罪被害者の遺族等が、亡くなった者に命の権利が存在することを知らずに、理不尽な要求をすることの心情は察しますが、法を立案し司る人達などが安易に全てを認めることは、国のために決して良い結果にならないことと存じます。」
事件が起こってから17年と少し。小林さんがこう考えるにあたっては、様々な葛藤があったと推察できます。殺人事件の時効が撤廃されたことで、犯人の罪は一生消えることはなくなりました。犯人が捕まるまで、また例え捕まったとしても、遺族の悲しみや怒りは到底消えるものではないでしょう。しかしそうした中で、被害者のご両親は、捜査証拠として眠っている息子の遺品の返却を求め、その魂とともに静かに生きていくことを望んでいらっしゃいます(http://www.ll.em-net.ne.jp/~deguchi/news/2012/0422.htmlより)。
私たちはよく、「被害者の気持ちになって考えてみろ!」なんて軽々しく使いますが、被害にあってもいない者が被害者の気持ちを代弁するなんて、驕りにも等しい行為だと思います。私たちにできることは、せいぜい「気持ちを察する」ことくらいではないでしょうか。
簡単に答えのだせるものではありませんが、この要望書がどういった方向に進んでいくのか。進捗が気になるところです。
ex, 「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」については、こちらのページを参考にさせていただきました。
http://www8.cao.go.jp/hanzai/whitepaper/w-2011/html/zenbun/part2/s2_3_1c5.html