豊崎由美×松田青子 トークイベント「読んでいいとも!ガイブンの輪 第32回」紹介本レポート!
このイベントに行ってきました。
豊﨑由美 × 松田青子 トークイベント | 青山ブックセンター
読んでいいとも!ガイブンの輪 第32回 豊﨑由美 × 松田青子 トークイベント
※この記事の前に、下記のエントリーを読んでいただくと一層楽しんで頂けると思います。
豊崎由美×山内マリコ トークイベント「読んでいいとも!ガイブンの輪 第28回」に参加してきました。 - ヘンテナブログ
さて、読んでいいとも!ガイブンの輪シリーズには2回目の参加です。書評家・トヨザキ社長、今回の対談相手は『スタッキング可能』という小説で第4回Twitter文学賞を受賞した松田青子(マツダ・アオコ)さん。
私がこの本を手にしたのは、たまたま立ち寄った下北沢の本屋・B&Bで『スタッキング可能』のイベントが行なわれることを知ったからなんです。そのイベントには松田青子さん自身はいらっしゃらず、トヨザキ社長と数人の書評家陣営が『スタッキング可能』について褒めちぎるような内容だったと記憶しています(うろ覚え…)。流れで購入し読んでみたところ、紛れもない傑作でした!ちなみに『スタッキング可能』は当ブログでも書評を書いているので、気になる方は読んでみてください。↓
松田青子『スタッキング可能 』 言葉遊びにとどまらない、個人の代替可能性についての追求。 - ヘンテナブログ
第32回ということもあり、今までにもそうそうたるメンツがイベントに来られています。イベントページから引用させていただきますね。
「読んでいいとも!ガイブンの輪」(通称「よんとも」)は書評家の豊﨑由美さんが「笑っていいとも」の「テレフォンショッキング」方式でゲストをお招きし、素敵な本屋さんを転々として海外文学について語り合う流浪の番組、ではなくトークショーです。
これまで、
野崎歓さん → 川上弘美さん → 岸本佐知子さん → 榎本俊二さん → 本谷有希子さん→〔特別編・柴田元幸さん+若島正さん〕→ 宮沢章夫さん → 前田司郎さん →〔特別編・大森望さん+岸本佐知子さん〕→ 石川直樹さん → 鴻巣友季子さん → 〔特別編・群像社×水声社×未知谷〕→ 片岡義男さん → 小池昌代さん → 青柳いづみこさん →古屋美登里さん → 影山徹さん →〔特別編・いしいしんじさん〕→ 坂川栄治さん → 藤田新策さん → 滝本誠さん → 風間賢二さん → 高山宏さん →〔特別編・作品社×水声社×国書刊行会×白水社×早川書房×河出書房新社〕→ 安藤礼二さん → 佐々木中さん → 海猫沢めろんさん → 山内マリコさん → 山崎まどかさん → 〔特別編・河出書房新社×国書刊行会×白水社×早川書房×作品社×群像社〕→ 松田青子さん → 伊藤聡さんと海外文学好きのお友達を紹介していただいております。
前回は、順番を入れ替えて伊藤さんにご登場いただきましたので、今回は、先日の第4回Twitter文学賞でも、初の単行本『スタッキング可能』が国内編第1位に選ばれました注目の作家、松田青子さんをお招きします!
ガイブン好きにはたまらないメンバーでしょう!岸本佐知子さんや海猫沢めろんさんは私も大好きなので、ぜひ次に再度来られる際はイベントに行ってみたいと思います。
松田青子さんのガイブン遍歴
松田青子さんのガイブン遍歴について、イベント冒頭でのお話を元にまとめてみました。
まず、海外文学との最初の出会いは「児童文学」だったとのこと。それが特に「海外文学である」という意識なく読んでいて、大どろぼうホッツェンプロッツが好きだった。もっぱら図書館が本と出会うスポットで、本好きな叔母と同居していたのも影響していたそうです。やはり親やそれに近い人が本好きであれば、結果的にその子どもも本好きになる傾向があるんですね。ウチもそうで、母は全く本を読みませんが、父はかなりの本好きです。私の本好きは間違いなく父からの影響を受けています。
トヨザキ社長が言っていましたが、国内小説は好きで読むのにガイブン小説は耐えられず脱落していく人がなぜ多いのかというと、やはり「カタカナ語」になじめないことが大きいようです。私がガイブンを読むようになったのはわりと最近なのですが、なぜそれまで読まなかったかというとカタカナが読めなかったからですね。もちろんカタカナそのものは読めますよ。ただ、登場人物しかり固有名詞しかり、覚えられないし読みにくいことが原因で、徐々に読むのが億劫になってしまったんです。
青子さんは、幼少期から「それがガイブンである」という意識なく読んでいたことから、苦手意識はなかったとのこと。実は今でもわからないところや覚えられないところはあるそうですが、『わからない部分を飛ばしたり、意識しないように読む』のが脱落しないコツなんだそうです。確かに、枝葉末節に捕われていると読む気をなくしますからね。
もう、小学生の頃から翻訳家か小説家になりたかった青子さん。夢叶って、今では両方とも手がけていらっしゃいます。年内には翻訳書が刊行され、福音館書店から絵本も出ることが決まっている。小説に限らず、どんどん活動の幅を広げていただきたいです。劇団に関わっていたこともあるようなので、舞台作家なんかもおもしろいんじゃないでしょうか。先の『スタッキング可能』はもちろん、この度刊行されたばかりの小説『英子の森』も、映像や舞台のセリフとして発音したくなるようなリズミカルな文章が非常に多いと思います。そう、声に出したくなるんですよね。ぜひそちらにも期待したいところ。
さて、毎度このイベントでは対談相手によって「テーマ」を設けています。山内マリコさんの際は「田舎小説=サバービア小説」でしたが、今回は「思春期・少女小説」でした。思春期って、エネルギーが爆発する時期ですよね。良くも悪くも、外向きにも内向きにも。青子さんとトヨザキ社長が薦める思春期・少女小説とはいったいどんなものなのか、それでは山内マリコさんとのトークイベントレポートと同じ形式で、紹介された本について書いていくことにしましょう。
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松田青子
ジョイス・キャロル・オーツ『どこへ行くの、どこへ行ってたの?』
今でいう、放課後に友だちとゲームセンターに行ってプリクラを撮るような、イケている女の子が主人公の短編小説。ある出来事から誘拐されてしまうのだが、これから被害者になる人物の「恍惚」を描くという、善悪では語れない不思議な読後感の小説だそう。柴田元幸さんが翻訳されている下記の本に収録されているものだと思いますが、実はイベント中さっそく聞き逃したので、違ったらすみません。
スーザン・マイノット『欲望』
男の子とつきあうと、そのたびごとに花びらがむしられていくような感じがする。―現代アメリカ文学の感性、マイノットのスリリングな最新作。
大学の授業で習った物語で、語り手の女性の名前は最後まで出てこず、散文に近い形で表現されてる。関わった男の数ばかりが並んで主人公の体験だけが綴られていくのですが、自分自身は空っぽなまま、男で埋め尽くされてしまう。最終的に「自分」がいなくなってしまう。
この本に限らず、海外文学は売り切っちゃうと再販されないことが多い。悲しいですね…。
ジャネット ウィンターソン『オレンジだけが果物じゃない』
狂信的なキリスト教徒の母から特殊な英才教育を受けて育ったジャネットは、幼くして説教壇に立つようになる。一方、学校では、地獄の恐ろしさを迫真の描写力で語って級友たちを震え上がらせたり、何かと過激な言動が目立って問題児扱いされている。やがて、そんな彼女にも恋を知る時が訪れる。それ自体〈神の子〉には許されぬことなのに、よりによって相手は......。以来、彼女には恐るべき〈受難〉が待っていた----
一言でいうと、キャリーっぽい。狂信的なキリスト教信奉者である親に育てられた少女の話だが、キャリーと違うところは決してその親を少女は裏切らないところ。不思議と明るい物語なんだそうです。同性愛というマイノリティを描いていることもあり、妙な現実感ある、なかば著者の自伝的小説。
トヨザキ社長曰く、「自分に娘がいたら、こんな子がいてほしい」と思えるそうですよ。
キャサリン・ダン『異形の愛』
トヨザキ社長、青子さんともに「なぜ復刊されないのか!?」と憤慨されていました。
ストーリーを引用させていただきます↓
Amazon.co.jp: 異形の愛: キャサリン ダン, Katherine Dunn, 柳下 毅一郎: 本
人間存在の根源を問う、全米図書賞候補作。フリークス版『百年の孤独』。傾きかけたサーカスの団長が計画した「お金をかけずにサーカスを再建する方法」とは、妊娠中の妻にありとあらゆる毒薬を飲ませて、見世物用のフリークスを誕生させることだった。親に望まれて生まれたフリークス同士の切なくも哀しい「異形の愛」は、信者自らが手足を切り落とすという破壊的な身体損傷カルトを生み出してしまう。からだの異形とこころの異形、ふたつの異形が交差する愛と憎悪の行きつく先は…。
なんとも不気味なストーリーですが、この本に満ちているのはタイトル通り「愛」なんですね。異形のキャラクターが氾濫しているからこそ、普遍的な「愛」がよりクローズアップされて見えてくるということなんでしょう。異形の者たちが言う、自分たちは美しいバラであり、人間のような大量生産品ではない」というコトバが、妙に心に刺さります。ぜひ読んでみたいのですが、絶賛絶版中です。
森見登美彦「有頂天家族」やジョン・アーヴィング「ホテルニューハンプシャー」が好きな人なら絶対ハマる!とトヨザキ社長が太鼓判を押していました。読みたいなぁ
- 作者: キャサリンダン,Katherine Dunn,柳下毅一郎
- 出版社/メーカー: ペヨトル工房
- 発売日: 1996/07
- メディア: 単行本
- 購入: 4人 クリック: 282回
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シャーリィジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』
あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。ほかの家族が殺されたこの屋敷で、姉のコニーと暮らしている…。悪意に満ちた外界に背を向け、空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々。しかし従兄チャールズの来訪が、美しく病んだ世界に大きな変化をもたらそうとしていた。“魔女”と呼ばれた女流作家が、超自然的要素を排し、少女の視線から人間心理に潜む邪悪を描いた傑作。
自分の周りを全てをファンタジー化してしまう「空想世界」に生きている18歳の女の子が主人公。ある種の寓話のようなストレンジフィクションなのですが、男性が読むと生理的に気持ち悪くなってくる感覚を味わえるそうなので、とりあえず読んでみたいと思います。
- 作者: シャーリィジャクスン,Shirley Jackson,市田泉
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/08
- メディア: 文庫
- 購入: 8人 クリック: 73回
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カレン・ラッセル『スワンプランディア!』
南フロリダの湖沼地帯。
マングローブ林の中の家族経営のワニ園〈スワンプランディア!〉は、
開園以来の危機を迎えていた。
ワニだらけの池に飛び込んでみせるたったひとりのスター、
ママのヒローラ・ビッグツリーががんで死んでしまったのだーー。
ママの死からはじまった
一家の混乱と困難と再会を描く感動のストーリー!!
2012年度ピュリッツァー賞小説部門最終候補作!
カレンラッセルの著書を今松田さんが訳している最中だそうです(そちらのタイトルは失念しました、すみません…)しかもその本と、このスワンプランディアは姉妹作のようにつくられており、あわせて読むともっと面白くなりそうだとのことでした。
先ほど紹介した『異形の愛』が好きならきっと好きになるだろうと青子さんが言っていたので、なかなか手に入れにくい『異形の愛』に代わって先にコチラを読むのはありかもしれません。陽気に絶望させるというか、決して泣かせようという筆致ではないのに、ただ勝手に読者がその明るさに泣かされるという、不思議な魅力に満ちた小説だそうですから。
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トヨザキ社長
ミッチ・カリン『タイドランド』
十一歳のジェライザ=ローズは、母さんが死んだ後、父さんに連れられてテキサスのおばあちゃんの家にやってきた。勇ましく探検に出かける少女のお供は、首だけのバービー人形。ある日、原っぱの先で黒いワンピースの幽霊女に出会う。その瞬間、何かが、少しずつ、少しずつ動き始めた―。南部の乾ききった大地に現れる幻の干潟のように捕らえどころのない、孤独な少女のグロテスクなまでの空想世界。一度読むと、死ぬまで忘れられない強烈な印象を残す、今、世界で最も注目される若き天才作家の挑戦。
- 作者: ミッチカリン,浅野隆弘,Mitch Cullin,金原瑞人
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/12/30
- メディア: 単行本
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エドワード・ケアリー『アルヴァとイルヴァ』
双子の姉妹アルヴァとイルヴァ。姉アルバは世界と奔放に戯れはじめ、妹イルバは外界を恐れてひきこもる…。町に迫る災厄と、双子のつくる粘土模型はどう関わるのか。世界に適応できない人々を穏やかなまなざしで描く。
エリザベス・テイラー『エンジェル』
舞台は20世紀を迎えようとする英国。
母が経営する食料品店の二階に住むエンジェルは、貴族の世界に憧れる貧しい少女。
空想の羽をはばたかせて壮大な小説を書いたところ、大ベストセラーになり、16歳で一躍流行作家となる。
富と名声を得たエンジェルは、ある日、貴族で甥で眉目秀麗な貧乏画家エスメと出逢い、結ばれるが・・・・。
自立を志す女性が出にした栄光と愛、破滅と没落までの生涯を描いた、英国の幻の悲劇。
- 作者: エリザベステイラー,Elizabeth Taylor,小谷野敦
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2007/11
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インドラ・シンハ『アニマルズ・ピープル』
スラム街の人々から“動物”と呼ばれる青年。
インドのカウフプールに住む彼は、赤ん坊の頃に巻き添えとなった汚染事故の後遺症で、四本足での生活を送っていた。「おれはかつて人間だった。みんなはそんなふうに言う」と“動物”はうそぶき、その数奇な人生を語りだす。育ての親であるフランシかあちゃんとの生活、愛しい女子大生ニーシャやアメリカから来た美人医師エリとの出会い、そして汚染事故を起こした「カンパニ」と戦う個性的な仲間たちとの波瀾の日々を―
世界最悪と言われた実際の汚染事故を下敷きに、みずからの不遇と容姿に苦悩する青年の生き様をユーモラスに描き上げる傑作長篇。
- 作者: インドラシンハ,荒井良二,谷崎由依
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/03/25
- メディア: 単行本
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DBCピエール『ヴァーノン・ゴッド・リトル―死をめぐる21世紀の喜劇』
痛快無類な文体で、現代アメリカを黒い笑いの連打で駆け抜けるブッカー賞受賞の大問題作、ついに刊行。
- 作者: DBCピエール,DBC Pierre,都甲幸治
- 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
- 発売日: 2007/12
- メディア: 単行本
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いかがでしたでしょうか?
毎度こういった本を紹介するイベントに行くと、どの本も読んでみたくなるから困ります。しかもガイブンはすぐに絶版になるため、下手したらとんでもない金額を出さないと買えなかったりしますので・・・。
最後に、青子さんの新刊『英子の森』を紹介して終わりにさせていただきますね。
彼女たちを「違う世界」へ連れて行ってくれる魔法、それは――
『スタッキング可能』でわたしたちが〈洗脳〉されている「社会」の「不確定さ・不安定さ」と「個人」の「代替可能性」をシニカルに描いた松田青子が贈る、待望の第2作品集。
※短編最後の『わたしはお医者さま?』は、村上春樹のパスティーシュだそうです。これから読む方は、意識しておくと面白いかもしれません。