あなたにとって「死」とは何ですか? 『かないくん展』フォトレポート
2014年5月16日から6月2日の間、パルコミュージアム(渋谷パルコパート1の3F)で開催されていた松本大洋×谷川俊太郎×糸井重里の手による絵本「かないくん」の展示に行ってきました。すぐにレポートをアップしようと思っていたのですが、その「死生観表現」があまりに心に響いてしまい、思うように文章を綴ることができず、結局完成が今頃になってしまいました。展示終了後で申し訳ないですが、少しでもこの展示で味わえる「死」や「生」の本質について伝わればいいなと思います。
かないくん展・フォトレポート
パルコスペースの入り口に大きく描かれた「かないくん」。
松本大洋さんの絵はとても優しいタッチで、まっすぐ前を見据えたかないくんの目には何が映っているのでしょうか。首に巻いた真っ赤なマフラーが、否が応にも「死」の臭いを醸し出しているのは皆さんにもわかるかと思います。
かないくんの視線の先を進むと、そこには歓迎の言葉を書いたボードと、なんと「遺影」となった糸井重里さんの姿が!
2枚目と3枚目の写真を見比べるとわかるかと思いますが、この糸井重里さんの絵は動きます。しかもしゃべります!それも陽気に。あっけにとられる趣向ですね。しかし「死生観」を表現した絵本の展示場で自ら遺影になってしまうとは・・・恐るべし、糸井重里。
糸井さんの遺影の横には、詩人・谷川俊太郎さんの詩が2編。
問いかけたいものはもうなくなっていた
答えが分かったからではなく
答えが分からないことが答えだと知ったから
答えなんて、必ずあるというものではない。
ときには導き出せない答えがあったりするもの。
特に若いうちは、早くに答えを求めがちでしょう。答えを探して、探して、探して、それでもみつからないものは、ひょっとすると答えなんてないのかもしれない。私は「死」に答えはないと思う。人の数だけ「死」はあるし、「死後」もある。人の数だけ「生」があるように。
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「かないくん」の下絵。
横には直筆原画が並ぶ。
下部にあるiPadには下絵のノートがインストールされており、電子書籍のような感覚で捲ることができる。
経路を進んだ先には、「死ぬとどうなるの」と書かれた黒板が。
ここには小さな子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、様々な歳の人が「死ぬとどうなるか」について書いている。
「死んでも自由だと思う。」
「天ごくにいくとおもいます。」
「美しく(?)穏やかに逝ってきまぁ〜す」
「わからない」
「とくに考えたことありません」
人の数だけある「死」のかたち。
年齢も、性別も関係ない。
細長い廊下には、構成案の原画が並べられていた。
この案通りになったものもあれば、全く姿形を変えてしまった原画もある。
何パターンも、何パターンも。
この展示場、至るところにかないくんの姿がある。
姿は変わらない。死の臭いがするマフラーを首に巻いたまま。
さらに進むと、そこには今まで通りの下絵原画と、色のついた原画が。
色が入っているからといって完成品というわけではなく、多くはボツになったもの。なかには松本大洋さん自らが破った原画もある。松本大洋さんがこの絵本に費やした年月はなんと2年!かなりの難産であったことが伺えますね。
下の写真、うまく撮れなくて暗くなってしまったのですが、映写機が床に置いてあり、天井に設置されたスクリーンに、松本大洋さんが「かないくん」のイラストを描く一部始終が投影されていました。
なんでこんな見にくい置き方を?と思いましたが、この世からいなくなってしまったかないくんを天上に置き、死をイメージした表現なのかなと解釈しました。
死のことをかんがえると すこし寂しい気持ちになる
でもときどきは(死)のことを考えておきたいとも思う
下の写真は少しわかりにくいかもしれません。
このボードの前に立つと、青白いスクリーンに自分の姿が映ります。しかしはっきりとではありません。ぐもぐもとモーフィングされた姿で。これも「死」をイメージした何かなのでしょうか。死とははっきりと「こう!」と言えるものではない。もっとどろどろしていて、よくわからないかたちをしているもの。
この青く照らされた小部屋は、かないくんが死んだ瞬間をイメージしていたのかもしれません。この小さなスペースで立ち止まる人が多かったのは、自分なりの「死」を思い浮かべてしまうからと、私には感じられました。
「死」の世界を抜け出た先、真っ赤な壁面の横には小学校時代を思わせる机と椅子が置いてありました。机の上にはノートと筆記具。ひょっとするとかないくんの机なのか。そのノートは、お客さんからのメッセージで埋め尽くされていました。
机の正面には、また大きな黒板が。
書かれているメッセージは先述と同じ、「死ぬとどうなるの」。
先ほどの黒板と違い、ここにある黒板には自分が思う「死」について、自由に書くことができる。見ての通り、様々な死生観でいっぱいだ。
「他の形になってまた生きる」
「忘れる」
「生きるってどうゆうこと?」
「死んでから考える」
「意思が生き続ける」
「分からないから楽しみにして生きる」
「死んだら終わり」
中には思わず笑みがこぼれるような死生観も。
中には得心するような死生観も。
本当に人の数だけ「生」も「死」もあるんだなって、この黒板を見ると思える。
壁に掛けられた真っ赤なマフラー。これはかないくんのマフラー。
このマフラーを巻いて、描かれたかないくんの横に立ってみると、なんとなくかないくんの気持ちになれる。かないくんと友だちだったように思える。死が何なのかは分からないままだけど、少しだけかないくんに寄り添うことができた気がする。
かないくんのグッズや本も売っていた。
この流れで絵本が売っていれば、改めて読みたくなるに違いない。
死は、どんな人間にも等しく訪れる。
なのに、人が死んだ後どうなるのか、誰も知らない。
いいことをした人は天国へ、悪いことをした人は地獄へ。
それもひとつの死生観。
輪廻転生、人は死んだら生まれ変わる。
それもひとつの死生観。
何を言っているんだ!死んだらそれでおしまいだよ!
それもひとつの死生観。
この絵本を読んでも、この展示を見ても、「死」が何なのかはわからない。きっと、わかったような気になるだけ。わかったようでわからないもの。それが「死」であり、その始まりの「生」である。かないくんが死んでも、変わらず日常は続く。かないくんが生きていたときと、かないくんが死んだ後は、つながったまま。まわりの人にとっては、かないくんが生きていた人生が終わり、かないくんが死んだ後の人生が始まる。「死」は「始まり」をもたらすのかもしれない。
私はこの絵本を読んで、この展示を見て、「死」について、そんなふうに思いました。
このブログを読んでくださった方々が、実際に「かないくん」を読んだ後、「死」についてどんなことを思うのか話し合ってみたいなぁと思います。よかったらSNSなどでシェアしてください。よろしくお願いします。
今月のプラチナ本 2014年4月号『かないくん』 谷川俊太郎/作 松本大洋/絵 | ダ・ヴィンチニュース
『かないくん』 谷川俊太郎/作 松本大洋/絵
●あらすじ●
ある日、ともだちのかないくんが学校を休んだ。かないくんは親友じゃない。ふつうのともだち。日常に訪れた、はじめての“死”─。
谷川俊太郎が一晩で書き上げた物語に、松本大洋が2年をかけて絵を描いたという本書は、死ぬとはどういうことなのか問いかける絵本。企画監修は糸井重里。ブックデザインは祖父江慎。
ほぼ日ストアで購入の場合は、特典として「かないくん副読本」(非売品)が付属。詳細は「ほぼ日刊イトイ新聞」(http://www.1101.com/)まで。
たにかわ・しゅんたろう●1931年東京都生まれ。詩人。52年に詩集『二十億光年の孤独』でデビュー。82年『日々の地図』で読売文学賞、93年『世間知ラズ』で萩原朔太郎賞を受賞。著者多数。『マザー・グースのうた』『ピーナッツ』など翻訳も手掛ける。
まつもと・たいよう●1967年東京都生まれ。漫画家。代表作に『鉄コン筋クリート』『ピンポン』『花男』など。『月刊IKKI』で連載中の『Sunny』は2013年5月に英語版が刊行されると、ニューヨークタイムズ紙のコミックランキングで3位になった。
期間限定の動画がほぼ日に掲載されていたので引用しました。この動画はそう遠くない先には消えてしまうと思います。早めにご覧になってみてください↓
- 作者: 谷川俊太郎,江田ななえ
- 出版社/メーカー: 東京糸井重里事務所
- 発売日: 2007/08/08
- メディア: 単行本
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